沈脈

沈脈は、浮脈の反対で、軽く触れても解らないけども、力を入れて脈をとると解るものです。
「石が水の底に沈んだような脈」と言われいます。
沈脈は病気がない場合にもよくみられます。
特に寒い冬などは沈脈になりやすいです。
沈脈で力がある場合は病邪が裏(体表でなく体内)にある状態と判断します。
たとえば沈で遅、弦などの場合は裏に寒邪があります。
沈で数、洪大などの場合は裏に熱があります。
沈脈で力がない場合は裏が虚していると考えます。
陽気の不足、気血の不足があります。
ただ、陽気の不足、気血の不足でも必ずしも沈にならず浮になる事もあります。
陽虚で脈が浮に成る場合は陽の気が脱しようとしている重篤な場合があります。
また気虚、血虚の場合も浮脈になる場合は症状がひどい事が多くなります。

浮脈

浮脈は脈が浮いている状態です。
脈が浮いているとは、脈の部分をかるく触ると強く感じるけれども、強く押すと触れにくくなるものです。
邪気が体表にある場合と、気虚を意味する場合があります。
邪気が体表にある場合とは、風邪などの引き始めなどによくみられるように、急性病の始めによく見られます。
邪気の性質によって、浮でも軟らかい脈になったり、固い脈になったりします。
気虚の場合は、一般的には大きくて軟らかく、すこし締まりがない感じの脈になります。
気には体表を引き締める力があり、この力が不足するためです。

結脈と促脈

結脈と促脈はどちらも不整脈ですが違いがあります。
結脈は、遅脈の状態での不整脈です。
陰気が盛んで、気の流れが悪くなっている時に見られます。
血流は瘀滞して気が不連続になっています。
寒痰が心脈に停滞している場合などによく見られます。
病気が長引いて体力を消耗している状態です。

これに対して促脈は数脈の状態の不整脈です。
陽熱が盛んな場合とか、気血食痰などの鬱の場合にみられます。
正気と邪気が激しく争うと化熱して脈は速くなります。
この時に邪気によって一時的に脈気がつながらなくなると不整脈がおこります。
邪気がつよい場合は脈も速いだけでなく強くなります。
病気が長引いて正気が虚してくると脈も弱くなります。

遅脈

遅脈は、数脈の反対で、遅い脈です。
脈は熱があると速くなり、冷えると遅くなる傾向があります。
ですから遅脈は、冷えを意味します。
この場合は、冷えは、陽虚などのように身体が温める力が不足している場合と、「寒」邪をうけた場合があります。
陽虚の場合は、腎陽虚、脾陽虚、心陽虚などがあります。
これは、冷えている場所の違いですが、実際的には症状の違いになります。
寒邪の場合は、表裏を考えます。
また寒邪が長く体内に居座る宿寒の場合もあります。
あまりに脈が遅く、また不整脈を伴う場合は心臓に問題がある場合がありますからお医者さんの診察を受けて下さい。

これ以外に正常な遅脈もあります。
例えば、若い頃に激しい運動をしていた場合は心臓のポンプの力に余裕があります。
身体がスポーツに順応するためです。
この場合は運動していない時の脈は遅脈になります。
漢方的には、このような人は適度な運動を続ける事が大切です。

数脈

数脈とかいて、「さくみゃく」と読みます。
速い脈です。
速度だけの問題ですから、脈診の初心者でもすぐにわかる脈です。

非常に早い脈を疾脈と言いますが、漢方的な意味は同じで程度の違いになります。
数脈は一般的には熱を表します。
風邪や発熱性疾患で体内に熱がある場合に数脈になります。
ただ数脈がすぺて熱かというとそうとも言えません。
数脈には気虚の場合と血虚の場合がよくあります。
気が充分にあれば、心臓はゆっくりと、力強く血液を送り出します。
ですから、多少の運動でも数脈にはなりません。
心臓が押し出す力が充分でないと、少し動いただけで血液の供給量が不足して心臓がバクバクします。
これが気虚で数脈になる理由です。
また、血が不足しても血液の供給量が不足して、心臓がそれをカバーしようとして数脈になります。
簡単に言えば心が空回りしている状態です。
この場合は多くは、動悸や息切れが見られます。

脈診について

今回より脈診について、少しずつ書いていこうと思います。
私は鍼灸師の免許を持っていますから、自由に漢方的な脈診をする事が出来ます。

脈診をする時は、いろいろな流派があります。
一般的には、次指(人差し指)、中指、薬指の3本の指を橈骨動脈にあてて脈診をします。
この時、次指が手首にくるようにて、3本の指をならべます。
次指にあたる部分を寸脈、中指にあたる部分を関脈、薬指にあたる部分を尺脉といいます。
寸脈は上半身、関脈は身体のまん中、尺脉は下半身の意味があります。
右手は気にかかわるので、寸は肺 関は脾 尺は腎陽(命門)となります。
左手は血にかかわるので、寸は心 関は肝 尺は腎陰 となります。

治則 宿火

いろいろな宿邪は体内に長期に止まると化火する事が多くなります。
そのため宿邪の中では宿火が一番多くみられます。
宿火の治療は宿火が何処にあるかによって違いがあります。
多くは温病の理論「衛気営血」辨証を用います。
例えば李振波という中医師は白血病を伏気の温病の理論で治療しています。
また張志堅という中医師は温病で用いられる昇降散でアレルギー性の紫斑病性腎炎、アレルギー性血管炎、シーグレン症候群、非細菌性尿道炎などを治療しています。
アトピー性皮膚炎も宿火の一種ですが、宿火が血分にある場合、気分にある場合、衛分にある場合などで使う漢方も異なってきます。
またヘルペスなどのウイルス疾患も宿火の一種と考えます。
清熱解毒の板藍根などがよく使われますが、これはインフルエンザにもよく使われています。
ヘルペスは宿火ですが、インフルエンザか外邪です。
この違いはありますが、使う漢方は良く似ています。

中国研修

中国の広州中医薬大学附属病院の研修団の団長として行ってきました。
今回の研修の中では、耳鳴りの臨床研修が良かったです。
中国各地から、どの病院でもお手上げ状態の患者さんが多数訪れていました。
数十年の耳鳴りも含めて70%の効果があるとの事でした。

治則 宿燥

宿燥の場合は、身体が乾燥するという事で津液不足や陰虚と混同しやすくなります。
しかし、両者には虚実の違いがあります。
宿燥の場合は、津液を補う事や陰を補うだけでは駄目で、必ず去邪する必要があります。
例えば桑杏湯などです。
辛味で潤すという概念も、津液不足に対してよりも宿燥に対して有効と思われます。
勿論、燥邪が長く去らない理由として津液不足や陰虚が関係する事も多くあります。
この場合は養陰清肺湯などが用いられます。
宿燥がある時に、滋陰のものだけを用いると邪気を閉じ込めてしまい、邪気がなかなか去らないという現象がおこります。
麦門冬湯に半夏が含まれているのは、これを避ける為と考えられます。
シーグレン症候群などの場合、ただ潤すものや陰を補うものだけを使っても思うような効果が出ません。
やはり宿邪を考えて去邪する必要があると考えられます。

治則 宿湿

内湿の場合と宿湿の場合での治療の差はあまり多くはありません。
ただ、宿湿の場合は三焦辨証を用いる事が出来ます。
また、外湿の場合と違い、湿邪が長く居座る理由として正気の虚があります。
特に、脾と腎の虚が関係している事が多いので、健脾薬や補腎薬との併用が必要になる場合があります。
また、肺気を開く事により、宿湿を出すという治療方法もあります。
湿については、非常に範囲が広く、それだけで1冊の本になっています。
宿湿の場合、非常によく用いられる処方が藿香正気散です。

治則 宿暑

暑は、湿と熱があわさったものですから、宿暑と湿熱は区別がつきにくくなります。
たとえば、細菌やウイルスの感染が原因で湿熱が出来た場合は、内因性の湿熱とは少し区別して宿暑と考えます。
慢性的な前立腺炎で、雑菌や白血球などが見える場合などは宿暑の例です。
それ以外にも、慢性的な扁桃腺炎や腎炎などもあります。
クラミジアが原因の卵管炎、また一部の抗精子抗体なも宿暑と考えます。
子宮腺筋症の一部にもみられます。
その他、ガンジタ、水虫なども宿暑と考えています。
アトピーや湿疹にもよく見られます。
免疫性の不妊症も、免疫のバランスなので、湿熱と考えるより宿暑と考える方が良い場合もあります。
このように考えると、宿暑の範囲は極めて広いと考えられます。

湿熱は清熱解毒ですが、宿暑の場合は三焦辨証を用いる事もあります。
ただ残念な事に、三焦辨証に対しての方剤は日本では完備されていません。
ですので、銀翹解毒散と竜胆瀉肝湯を併用するなどの方法を考えます。